かなな著
後片付けがひと段落ついた後、芽生は翔太の部屋の前までやってきていた。
扉をノックする。
「翔太・・。」
問いかけてから、ドアを開けると、翔太は机の上に突っ伏していた。
まるで小さな少年が、そのまま大きくなって、拗ねている感じだった。
ソロソロと近づいて、彼の傍のベットに腰掛ける。
「・・・兄妹なんて話。いつパパから聞いたの?」
覗き込むようにして、小さく問いかける芽生に、彼はピクリと体を震わせると、起きあがった。
芽生を見つめて、
「確か中学に入るか、入る前かぐらいだったと思う。」
と答えてくる。
「オヤジさんも、人が悪いんだぜ。そんな話、俺の気持ちに気付いてから、慌ててカミングアウトするんだものな。
もっと前に話してくれたら、純粋に妹として見る事ができたのに・・。」
自笑気味に笑う彼の顔を見ていると、辛くなる。
「私なんか、今聞いたんだよ。どう気持ちを整理つけたらいいのよ。」
どうしても拗ねる口調になってしまった。
翔太は、半笑いの微妙な笑顔を浮かべて、立ちあがる。そして、芽生の横に座ってこう言った。
「悪かったな。
芽生には・・・いつかは言わなければとは思っていたよ。
決心が、なかなかつかなかった。
今日竹林と芽生の姿を見た時に、ここが潮時だと思ったんだ。
そろそろ俺も限界に近かったし・・・。」
最後の方の言葉は、一人言のようにつぶやき声だ。
「パパもパパだわ。何も言わずに行っちゃうなんて・・。」
言いながらも、まだ納得出来かねる芽生の表情に翔太は頷き、
「俺の両親。実は無理心中だったってこと知ってた?」
といきなり聞いてきたものだから、びっくりする。
「無理心中ぅ?・・・そんなの聞いた事ないわよ。」
目を見開くと、
「やっぱり、それも知らされてなかったんだな。
じゃあ、俺には兄もいた事も?」
「・・・・それは、何となく。記憶が曖昧だけど・・。」
言われて、芽生は首をかしげる。
たまに翔太の家に行った時に、見かけた事があったような気がするが、おぼろだ。
あいまいな顔の芽生に、翔太はコクン。とうなずいた。
「ほとんど顔を合わせなかったから、覚えていなくて当然だと思うよ。
兄さんは、生まれつき、重度の障害を持っていて、ベットの上で生活していたから・・・。」
言ってから、一拍置く。
「兄さんは、遺伝上問題があったんだ。
俺の両親こそ、許されざる関係だったから。
日本では籍に入ることすら認められない、血の繋がった兄妹が愛し合った末に出来た子供だったんだよ。」