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第三章 

29話)翔太の部屋へ



 後片付けがひと段落ついた後、芽生は翔太の部屋の前までやってきていた。
 扉をノックする。
「翔太・・。」
 問いかけてから、ドアを開けると、翔太は机の上に突っ伏していた。
 まるで小さな少年が、そのまま大きくなって、拗ねている感じだった。
 ソロソロと近づいて、彼の傍のベットに腰掛ける。
「・・・兄妹なんて話。いつパパから聞いたの?」
 覗き込むようにして、小さく問いかける芽生に、彼はピクリと体を震わせると、起きあがった。
 芽生を見つめて、
「確か中学に入るか、入る前かぐらいだったと思う。」
 と答えてくる。
「オヤジさんも、人が悪いんだぜ。そんな話、俺の気持ちに気付いてから、慌ててカミングアウトするんだものな。
 もっと前に話してくれたら、純粋に妹として見る事ができたのに・・。」
 自笑気味に笑う彼の顔を見ていると、辛くなる。
「私なんか、今聞いたんだよ。どう気持ちを整理つけたらいいのよ。」
 どうしても拗ねる口調になってしまった。
 翔太は、半笑いの微妙な笑顔を浮かべて、立ちあがる。そして、芽生の横に座ってこう言った。
「悪かったな。
 芽生には・・・いつかは言わなければとは思っていたよ。
 決心が、なかなかつかなかった。
 今日竹林と芽生の姿を見た時に、ここが潮時だと思ったんだ。
 そろそろ俺も限界に近かったし・・・。」
 最後の方の言葉は、一人言のようにつぶやき声だ。
「パパもパパだわ。何も言わずに行っちゃうなんて・・。」
 言いながらも、まだ納得出来かねる芽生の表情に翔太は頷き、
「俺の両親。実は無理心中だったってこと知ってた?」
 といきなり聞いてきたものだから、びっくりする。
「無理心中ぅ?・・・そんなの聞いた事ないわよ。」
 目を見開くと、
「やっぱり、それも知らされてなかったんだな。
 じゃあ、俺には兄もいた事も?」
「・・・・それは、何となく。記憶が曖昧だけど・・。」
 言われて、芽生は首をかしげる。
 たまに翔太の家に行った時に、見かけた事があったような気がするが、おぼろだ。
 あいまいな顔の芽生に、翔太はコクン。とうなずいた。
「ほとんど顔を合わせなかったから、覚えていなくて当然だと思うよ。
 兄さんは、生まれつき、重度の障害を持っていて、ベットの上で生活していたから・・・。」
 言ってから、一拍置く。
「兄さんは、遺伝上問題があったんだ。
 俺の両親こそ、許されざる関係だったから。
 日本では籍に入ることすら認められない、血の繋がった兄妹が愛し合った末に出来た子供だったんだよ。」